漁業のルーツの1つとして釣りがあります。その起源は旧石器時代まで遡ります。根拠となるのは2016年9月、沖縄県南城市にあるサキタリ洞遺跡から、世界最古となる2万3000年前の釣り針が出土したことです。
巻き貝の殻を三日月型に削り出し、先端が徐々に細くなるように研磨したもので、大きさは1・5センチほど。旧石器時代は縄文時代よりさらに古く、気象条件も厳しい時代で、どのような暮らしを営んでいたのか詳細は分かっていません。
世界最古の釣り針。ニシキウズ科の貝の底面を割って、平らな部分を砥石で磨き上げて作られている。幅は14mm程度。 (Fujita et al., 2016, 写真:沖縄県立博物館・美術館 所蔵・提供)
しかし、この発見により旧石器人が魚を食料にしていたことが明らかになりました。1万年前に始まったと言われる農業と比べ、人間と魚の付き合いが遥かに古いことも、改めて確認されました。
そして現在。幾度かの技術革新を経て水産技術は想像以上に進んでいます。例えば「魚群探知機」「全球測位衛星システム(GNSS)」などがあります。魚群探知機は、戦時中に開発された潜水艦発見のための音響測深器(ソナー)を原型とし、これに数々の改良を加えて性能を向上させた機器で、魚群の位置ばかりでなく魚体のサイズを分析できるものもあります。
GNSSは人工衛星により、地球のどこにいても24時間連続して現在位置が分かるシステムで、アメリカが開発したGPSはGNSSの1つ。自船位置、運航ルート、漁獲位置の正確な把握を可能にし、効率的・効果的な漁業に大きく貢献しています。
将来は人工知能(AI)を活用した漁業システムも登場する見込みです。その手始めとして現在、農林水産省と水産庁は魚介類の選別・加工システム開発に乗り出しています。水揚げされた魚の種類を特定し、必要な魚種を選び出し、サイズ・色合い・脂ののりなど品質に応じて分類するもので、これまで目利きに頼っていた作業の機械化を目指しています。
さらに漁船の自動操業化も人工知能は可能にすると考える研究者もいます。全国の漁業データなどをもとにAIが漁獲計画を策定し、無人漁船が出港。GNSSで正確に漁獲ポイントまで航海、魚探で的確に水揚げ。指定された港に戻り、魚を格納して自動仕分けした後、自動運転の冷凍車が各地の市場に届ける…。
夢のような話ですが、農業分野ではほぼ同様な自動化システムの研究がすでに始まっています。水産分野での取り組みも期待されます。そのとき人間は何をするのでしょうか。それは旧石器時代からの長い付き合いである人間と魚が、いつまでも共存できる水産業の新たな枠組みづくりだと考えられます。
例えば、海洋環境や資源保護を各国が協力して実行する地球規模のネットワーク構築、バイオなど先端技術を活用した養殖技術の新開発による資源拡大、長寿や治療など健康への有用性を高度に追求した機能性食品の開発など、人と魚が幸福になる仕事に全力を注ぐことになるでしょう。
全世界の海洋漁業活動を可視化するウェブサイト「Global Fishing Watch」(出典:Google)