縄文時代の遺跡から骨が見つかるなど、日本人は古くからマグロを食べてきました。古事記や万葉集には「シビ」という名で登場しています。ただ、傷みやすく、干したり塩漬けにすると食味が落ちるなど、マグロは他の魚以上に扱いにくく、消費量は多くありませんでした。
変化が起こったのは江戸時代。醤油の醸造が本格化し、傷みを防ぐマグロの「醤油漬け」が考案されました。握り寿司のネタにすると特に美味しく、人気が高まりました。トロは脂分が多く醤油との馴染みが悪いため、醤油漬けにならずに捨てられました。この状態は昭和になるまで続きます。一般の人も気軽にトロを刺身で食べられるようになったのは1960年代以降、冷凍技術が進歩するまで待たなければなりませんでした。
二人がかりで大きなマグロを天秤棒で担ぐ姿が描かれている。 『日本橋魚市繁栄図』(部分) 歌川国安 画 1794-1832:国立公文書館デジタルアーカイブ・提供
ちなみにマグロの漁獲法は、日本発祥の延縄(はえなわ)と呼ばれる漁具を使用する延縄漁が主流です。魚体を傷つけずピンポイントで釣る、漁業資源に優しい漁法として世界から評価されています。餌と釣り針を設置した枝縄を等間隔に複数つなげた幹縄を漁船から海中に設置(投縄)し、一定時間が経過した後、これを回収(揚縄)するというものです。
遠洋を航海する大型船になると幹縄は100~200キロに達することがあります。釣り上げたマグロは船上でエラと尾を切り離し、はらわたを抜いた後、マイナス60度で急速冷凍されます。この急速冷凍がマグロの鮮度と品質保持に欠かせない技術なのです。
水は凍ると体積が膨張し、マグロの細胞を破壊、解凍時に味が落ちる原因になります。細胞破壊を防ぐには水分が凍るマイナス1度~マイナス5度の温度帯を、可能な限り短時間で通過することがポイント。これを実現して細胞の損傷を最小限に抑え、冷凍前の鮮度と食味の保持を長期間にわたり可能にしたのが、60年代に開発された急速冷凍技術。これによりトロを含むマグロの流通量が拡大、マグロブームとなりました。ピークとなる1995(平成7)年の消費量は70万トンを超えました。
近年はグローバル化による食材の多様化などで約40万トン前後で落ち着いています。それでも日本は世界のマグロの約5分の1を消費するマグロ大国。一方、世界的な和食ブームにより、日本以外でのマグロ消費量は増えています。この状況は、マグロ大国としての漁業資源の保護と、マグロの美味しさに気づいた世界各国への供給拡大の好機が、同時に存在していることを意味します。
私たちは現在、世界で起きている時代潮流やニーズの変化を的確に捉え、その背景を正確に分析・評価しつつ、新たなマグロビジネスの展開を目指す戦略構築に取り組んでいます。